会長、イイコはもう終わり
朝日 慧役 土岐隼一さん
飛騨勇成役 増田俊樹さん
左から:飛騨勇成役 増田俊樹さん、朝日 慧役 土岐隼一さん
――収録のご感想
土岐さん:なかなか素直になれない二人がちょっとずつ距離を詰めていくストーリーがいい意味でもやもやして、そこからだんだん仲良くなっていくのは(原作を)読んでいても、演じていても素敵だなと思いました。朝日くんの人当たりの良さの裏にあるちょっとしたコンプレックスだったり、人と違う部分を隠していたり、素直に好きなものを好きと言えないとかは、たぶん色んな人達が持っているものだから、そういう部分でも彼を好きになれる人はいっぱいいるんじゃないかなと思いつつ演じさせていただきました。
増田さん:すごく大変でした(笑)。原作を読んで、飛騨の振り向いたり何かに気づいたりのリアクションは、呼気を使って音にするタイプではないと思っていたから、(台本を)チェックした段階では三点リーダーとかを全部カットしていたんですよ。僕は一人ではなく相手がいるなら、音で伝わるようにしなくても相手の空気感やアクションで話している相手がどういう顔をしているのか表現することが可能だと思うタイプなので。だから今日、ドラマCDという音声だけの媒体だから全て音で表現して欲しいと言われて、その音声化する部分が全体的に多かったこともあり、収録に苦戦しました。
――印象に残っているシーンは?
土岐さん:やっぱり、お互いに自分の気持ちをやっと言えるクライマックスのシーンかな。気持ちよく終われたので、僕はそこが好きでした。
増田さん:僕は2階から飛び降りるシーン。青春してますよね。普通の人間からすると「ちょっとそこで待ってて!」ってなるのに、飛騨は飛び降りる(笑)
土岐さん:無傷だし(笑)
増田さん:これはフィクションじゃないと成り立たないから、そういった意味ではヒーロー物のシーンのようで印象的でした。
――もし誰かに飛び降りて来られたら?
土岐さん:……。
増田さん:「うわ~、飛び降りた」って思いますね。
土岐さん:「大変」と思うでしょうね。ただ朝日は次のシーンがあるから、飛び降りたことへの驚きよりも、飛騨がいてくれたことが嬉しいという気持ちが大きいんだろうと思って僕は演じました。
増田さん:嬉しいだけではないんですね。
土岐さん:びっくりもしているだろうけど、それ以上に嬉しかったんだろうなって。
増田さん:朝日的には好きな描写なのかなと思いました。男性的、女性的と表現してしまうとあれなんですけど、男性の求める女性像では“飛び降りる”にきゅんポイントはないんですよ。
土岐さん:うん。
増田さん:僕の思う恋愛対象には、2階から飛び降りてくる人にプラス要素がない。
土岐さん:驚きが強いかもしれないですね。
増田さん:でも女性なら好きな男性が2階から飛び降りてきたらきゅんポイントになるんじゃないかと思います。男の「バカやってんな」みたいなところが、一周回って「私の為にここまでバカやってくれるんだ」って。男はそうは思わないですよ。「あっぶないなあ、もう!」ってなる。
土岐さん:「そこで待ってて」って言って、くるって回って行く時間すら惜しいから飛び降りちゃうんですよ(笑)
増田さん:むしろ「そこで待ってて」って言われる方がきゅんとする。そう言われたら、待ってる間「え……なんで待っててって言ったんだ?」「もしかして」「あっー!」ってなる。飛び降りてくるのは、男の子にしか許されないやつですよ。
――編集さん:少女漫画なら飛び降りると思います。
――栗原カナ先生:少女漫画のクライマックス。
増田さん:だったらやっぱり女性は好きなんだ。じゃないと女性誌のマーケティングがみんな否定されることになる(笑)
土岐さん:その描写があることで憧れる?
増田さん:そう。それを女の子達が読んで「私もこういう男性と恋愛したい」って思って、少女達は女性へと成長していくわけじゃないですか。
土岐さん:まずそれをやってくれる人を探して。
増田さん:で、現実にはいないなってなって、飛び降りずに「ちょっと待ってて」って言ってくるっと回ってくる男を、「まあ飛び降りないよな。でもいい人だもんな」となって、付き合って結婚するんです。
土岐さん:でも「待ってて」って言われることは嬉しいから、まあまあ良かったというところですよね。
増田さん:言われたいなー。「ちょっと待ってて」って言われたくないですか?
土岐さん:今日収録で(リテイクが必要な部分を確認するのに、音響監督から)「少々お待ちを」って何回も言われましたよ。
増田さん:あれはちょっと別です……。嬉しくないです。
――朝日のように別の土地に行きたいと思ったことや、別の土地に行って何か感じたことは?
土岐さん:僕は東京生まれの東京育ちなんですけど、東京でも土地によって全然違うし、この仕事を目指すに当たって学校に入った時に一人暮らしを始めたら、やっぱり環境を変えることはすごく刺激になりました。逆にたまに地元に帰ると、同じ東京ではあれどどこか懐かしさを感じるのは、きっと僕が別の場所で、その環境に馴れたからなんだろうなって。色んなところに引っ越すと、その場所その場所での発見もあって、たぶんずっと同じ地域にいたら得られなかったものもあるだろうなと思うし、役者さんだと験担ぎで自分の給料だとギリギリのところに敢えて住んでいた人の話も聞いていて、住む場所によって得られる何かがあるんだと思います。
増田さん:僕は皆さんが思うような地元がないんですよ。父親が転勤族で、引っ越したくなくても引っ越していたような生活でした。だいたい2~3年で引っ越すのが僕の中では当たり前で。子供の頃、東京にも住んでいました。父方も母方も祖父母が広島に住んでいることもあり、自分では地元は広島なのかなと思っています。引っ越しが多いと、どこにいるかより自分が何をするかなのかなとも思いますし、東京で頑張って色々なことをやって、生活が充実してきたり、夢見てた生活っぽいものも送れているのに、30歳を超えてからめちゃくちゃ広島に帰りたいと思うようにもなりました。そういう意味では、東京から出たいという気持ちも、東京に行きたいという気持ちも、その場所ではなく環境を求めているんだから、どこへ行ったっていいんじゃないかなと思いますね。
土岐さん:広島が一番長くいた場所でもないんですか?
増田さん:一応一番長かったです。小学校、中学校は公立だったら手続きだけで転校できるんですけど、高校転入は難しいじゃないですか。だから中学の時に父親は単身赴任にして、広島に長く住もうってことになりました。でも上京して十何年だから、もう東京が一番長いですね。
――発売を待っている方へのメッセージ
土岐さん:原作の栗原先生が「少女漫画のクライマックス」と仰っていた時に、確かになと思いました。どのシーンを見ても、絶対にきゅんとできるところが散りばめられています。彼らの10代から20代の間というとても多感な時期の物語を何度も聴いて、好きなところを見つけて楽しんでいただければな、なんて思います。
増田さん:原作を知っている方々は音声化で新しい楽しみ方が見つかるかもしれませんし、原作をまだ知らない方は、ドラマCDの発売までに原作を読んでいただいて、これが音声化したらどういう風になるんだろうなと発売日を楽しみに待っていていただけたら嬉しいです。