秘密の森の魔術師はのどかを願う
シャガール役 松岡禎丞さん
フィオ役 大塚剛央さん
左から:フィオ役 大塚剛央さん、シャガール役 松岡禎丞さん、ルソー役 水中雅章さん
――収録のご感想
松岡さん:シャガールは僕が昔から今現在までに演じさせていただいた役どころの、いいところを掛け合わせたようなキャラでした。昔は結構中性的な役が多くて、シャガールも中性的ではあるんですが、作中で「年増」と言われていて(笑)。そんなキャラを今の年齢になった僕が演じさせていただけたからか、本当に自然体にできたなと感じました。あと、原作のお話と絵がきれいなのが印象に残っています。すごくやりがいのある作品でした。
大塚さん:フィオはガタイの良さと出自の高貴さと、でも性格がちょっとワンパクで子供っぽさもあって、というところのバランスが難しかったです。収録で色々調整していただきましたが、そこを掴むのに苦労しました。設定が色々作り込まれている作品で、CDの巻末トークでも話したように、僕はファンタジー作品が好きで、「森の奥に魔術師が住んでいる」というのもすごく好きなので、お話は読んでいてすっと自分の中に入ってきました。シャガールも他のキャラクターもそれぞれに葛藤があるし、フィオもフィオで悩みもあるし、みんなそれぞれ人間味があって、とても共感しながら楽しく読ませていただいて、楽しく演じさせていただきました。
――演じる上で気をつけたところ、意識したとことは?
松岡さん:シャガールはある種、過去に囚われているんですよね。若干現実逃避している感じがあったり、卑下するまではいかないけれど、「自分はこんなだから、ひとりでのびのびと生きて行くのが性に合っているんだ」って自分を納得させているようなところもあったり。だから僕もシャガールを、ただ単純に今の生活を楽しんでいる人には見せたくなくて、外界との接触を断ってきた人間がどういう感情を抱いているのかを考えました。本当に今の生活を楽しんでいるなら、もっと「7人のこびと」みたいに、追放された結果、こびとやふわふわした動物たちとわいわいやりました、になっていいんですよ。でもそういうお話ではない。シャガールは普段はあんまり見せないけれど、蓋を開けてみたらパンドラの箱くらい思いものを持っていて、僕もそこに魅力を感じているから、CDを聴いた方が「ああ、実はそういうキャラだったのね」と思っていただけるような緩急を意識しました。シャガールとしてはそんなに緩急の幅はないんですけど、その狭い幅の中でもちゃんと出していきたいなと。シャガールの浮世離れした感じを出すにも、これは日本語の難しさでもありますが、言葉尻が半音変わるだけで同じセリフでも意味合いが変わっちゃうので、そこも意識しています。シャガールはヘラヘラしているようで、怒る時は怒るし、ゾッとさせるところはゾッとさせるし、ストーリーの中にも緩急が組み込まれているから、あとは自分がどこまで表現し切れるかという闘いでもありました。
大塚さん:魔術を使う時の呪文が原作では模様で、文字では「ぶつぶつ」と表現されていたから、(CD用でシナリオに書かれているセリフを)どう発音すればいいのか……。
松岡さん:わかる(笑)。モザイクみたいな模様。
大塚さん:「口の中でごにょごにょと、明確にシナリオ通りにやらなくて大丈夫です」とディレクションはあったんですけど、とはいえ適当にやるわけにもいかず(笑)。そこは面白くもあり、難しくもありました。でもCDでは呪文に音もついて、このファンタジーの世界観がより色づくだろうから聴くのが楽しみです。ただ初見で見た時に、これは普通に喋って出る音ではないな、と思いました(笑)
――シャガールから見たフィオ、フィオから見たシャガールの印象は?
松岡さん:フィオは外見の印象もあるにはあるんですけど、それより目の感じを見た時に、ネコ科とワンちゃんのハイブリットなのかなと思いました。トラとピットブルとかの。優しいイメージがフィオの基本ではあっても、そこに貴族や王族としての強さや怖さもあるから、底知れぬものを感じます。
大塚さん:原作でも一目惚れと書かれていて、確かに一目惚れもしているんですが、フィオの魔力が足らないという境遇もあって、理屈ではなく運命的にシンパシーを感じて惹かれ合ったんだと思いました。僕は個人的には運命は結果論だと思っていますが、それでももし運命があるんだとしたらこういうことなのかなと感じるふたりです。あとは一目惚れなら、もしかしたらフィオはメガネが好きなのかなと思ったり(笑)
松岡さん:(笑)。メガネが本体みたいな(笑)
大塚さん:(笑)。コミックスのあとがきも読ませていただいたんですけど、メガネは(蔓沢)先生のこだわりだと書かれていたので、きっとフィオもそこを含めて好きなんだろうなと。でも松岡さんのお芝居もあって、最初の出会いから、人間離れしたところや、ちょっとした危うさのような魔力以外にも惹きつける何か、目が離せない何かがあって、不思議な魅力を持った人だなと思います。
――発売を待っている方へのメッセージ
松岡さん:シャガールという素敵な役を演じさせていただきました。今回のお話は紆余曲折、緩急の差が気持ちいい感じになっています。ズドーンと心にきて「ああもう、つらい……」となる瞬間があっても、個人個人が折り合いをつけて先に進んでいる描写もあるから、つらいばっかりでもない。本当に美しい作品なので、ぜひとも皆さんに楽しんでいただけたらなと思います。
大塚さん:ジャンルとしてはファンタジーに分類される作品だと思うんですけれども、そこに生きている人たちの様子だったり、心の機微もすごく丁寧に描かれていて、読んでいて「これはどういうことだ?」と引っかかることが全然なく、すっと演じられました。原作をご存じの方はもちろん、このCDで初めて作品を知った方も、きっととても楽しんでいただける素敵な作品だと思っています。CDが発売したら、ぜひ原作を片手に聴いていただけたら嬉しいなと思います。